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2022年1月16日日曜日

読書 「歌謡曲の時代」阿久悠

        歌謡曲の時代~歌もよう人もよう


著者:阿久悠
出版:新潮文庫

阿久悠が、かつて作詞した曲のタイトルを題材にして、平成になってそれらを振り返った99編のエッセー。
冒頭の序で、流行歌、歌謡曲、演歌の定義づけをして、歌謡曲が定型や様式から解放された永遠に生きもののようなものであり、それが著者には魅力だったというところから始まっている。
平成になってから、歌謡曲という言葉が消えてしまった事への、昭和の大作詞家としての矜持が満ち溢れている。

そういう私も、昭和に青春を過ごし、現在の歌の流れから取り残されてしまった化石のような存在かも知れないが、やはり昭和の歌、阿久悠の歌は魅力的である。
ただ、阿久悠が「昭和の歌が世間を語ったのに対し、平成では自分だけを語っている」というのには、私は意見が違っていて、70年代のフォークは、反戦歌のように時代を歌ったものもあるが、一方では男が失恋して、いつまでも未練がましく元カノを思い出してはメソメソとしている歌(※1)も多く、これはこれで私の好きなジャンルでもある(もっとも阿久悠の定義は自分が作詞した曲のことを言っているのであろうから、私の言うことは的が外れているかも知れない)
※1:岬めぐり・いちご白書をもう一度・あの素晴らしい愛をもう一度・学生街の喫茶店・なごり雪など。

とはいえ、この昭和の権化のような作詞家が作った「どうにもとまらない」「舟唄」「青春時代」「街の灯り」「津軽海峡冬景色」「時代おくれ」「時の過ぎゆくままに」「宇宙戦艦ヤマト」「また逢う日まで」「サウスポー」「ペッパー警部」「熱き心に」「あの鐘を鳴らすのはあなた」「林檎殺人事件」「ピンポンパン体操」「ジョニーへの伝言」「もしもピアノが弾けたなら」等々の作品誕生にまつわるエピソードはもちろんのこと、交流のあった作曲家や歌手の話、社会・世相への言及まで、それこそ副題の「歌もよう人もよう」を表している。

阿久悠の歌を愛してやまぬ人々にとって、それぞれの詞のひとつ奥にある物語の背景が鮮やかに姿をあらわすエッセーに触れられるということは、至福の喜びである。

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