「政治の季節」から「所得倍増」への時代の中で・・・
日比谷公会堂での刺殺の瞬間を捉えた写真日本刀を持った山口ニ矢が体当たりで浅沼稲次郎の脇腹を突き刺し、更に第二撃を加えようとした瞬間。
撮影したカメラマンはこの写真でピューリッツァー賞を受賞しました。(この写真はネットから引用しています)
昭和35年10月に起きた社会党委員長・浅沼稲次郎の刺殺事件。この事件を扱った沢木耕太郎の「テロルの決算」は以前から関心があったが、10年程私の本棚で積読状態でしたが、今回やっと読み終えました。
今では風化して、若い世代は全く知らない事件であると思うが、当時は小学生だった私でさえも大きな衝撃を受け、連日新聞に大きく取り上げられていた記憶がある。
本書では、余り触れられていないのだが、事件の起きた昭和35年というのは、所謂「60年安保」の年であり、日本全体が政治に揺れていた年であった。後に保守の論客となる、江藤淳、石原慎太郎、黛敏郎、浅利慶太までが、「反安保・反政府」を叫んでいた。そして岸信介首相の孫であった安倍晋三が、意味も分からず「アンポハンタイ!」と首相官邸のリビングの中を走りまわっていたという。
その年の6月の安保闘争で樺美智子さんが死亡し「反安保・反政府」運動はピークに達したが、7月には日米安保条約の批准をし終えた岸内閣が倒れ、替わって「所得倍増」を掲げた池田内閣が登場し、時代は変わろうとしていた。
かなり前置きが長くなってしまったが、本書では、そのような政治の季節と呼ぶ時代が変わろうとしていた中で、17歳の山口ニ矢と、61歳の野党第一党の社会党委員長の浅沼稲次郎が、この年の10月に日比谷公会堂でなぜ交錯していくようになったかを、豊富な資料とインタビューによって、二人の人生の軌跡をきめ細かく丹念に、著者特有の硬質な文体で見事に描ききっている。
久々に骨のある本を読んだ気がします。もっと早く読めば良かった。力作である。