映画 「開戦前夜」 石井裕也 (監督・脚本・編集)
(原作:「昭和16年の夏の敗戦」著者:猪瀬直樹
深刻なテーマを扱った映画で、2時間以上の上映時間ですが、緊張感あふれる内容で、最後まで一気に見せてくれます。
最後の空襲で焼け野原になった場面を見ながら、何でこんな負けるのが分かっている戦争に突入してしまったのかと、自然に涙が湧いてきました。
総力戦研究所が「日本必敗」という結論に到達しながら、その警告が国家を止める力を持たなかったことこそ、この映画が訴える最大の悲劇であり、同時に現代にも通じる重い教訓ではないでしょうか。
〈あらすじ〉・・・ネタバレ
1941(昭和16)年4月、真珠湾攻撃の8カ月前。官僚・軍・民間から選りすぐられた若きエリートたちが、内閣総理大臣の直轄機関「総力戦研究所」に招集された。彼らに与えられた任務は“模擬内閣”を結成して日米が開戦した場合の戦局をシミュレーションし、その結果を近衛内閣に報告すること。宇治田(池松 壮亮)を始めとするメンバーたちは、国家機密レベルのデータを駆使した激烈な議論の末、「日本必敗」という衝撃的な結論にたどり着く。しかも彼等は当時欧州を席捲していたドイツの敗北まで予想していた。
彼らの「敗北という見通しから戦争回避すべし」という報告に反して、既にアメリカからは日本への石油禁輸処置が打ち出され、時代の空気は彼らの意図とは反対の方向へ流れていく。そうした中で、近衛が内閣を投げ出し、東條英機に組閣の命が下る。
この場面は、以前読んだ「木戸幸一日記」に書いてあることが忠実に再現されている。天皇や木戸が東條に組閣を命じた意図は、陸軍を抑えるためであるが、東條もその意向に沿って動こうとする・・・そうした意図に反して、マスコミは戦争を煽るような形で世論を扇動し、陸軍もそのような動きと歩調を合わせ、東條でさえ身の危険を感じるほどになる。得体の知れない戦争への熱気が日本全体を覆い、時代は時間と共に戦争に向かっていく。
〈余談〉
最近、高坂正堯の遺作となった「世界史の中から考える」を読んでいると、太平洋戦争に関して「真珠湾の攻撃」「ハル・ノート再考」という章があった。アメリカ側からの考察である。
そこでの高坂の見立ては、ドイツが快進撃を進め、フランスが降伏し、イギリスも追い込まれていた欧州の戦争に、ルーズベルトは参戦したかった。ただ、建前としては「アメリカが攻撃されない限り、戦争はしない」と語っていた。つまり当時のアメリカは孤立主義、すなわち旧世界(欧州)の権力政治にアメリカは関与しないという建国後まもなく作られた原則だった。
当初、ルーズベルトはまずドイツを挑発しようとした。イギリスに駆逐艦五十隻を与え、それを輸送する際、アメリカ海軍が護送した。ドイツが潜水艦か他の方法で、その艦隊を攻撃しても当然だった。第一次世界大戦ではアメリカは中立を続けたが、アメリカ客船をドイツの潜水艦が撃沈したため、アメリカが参戦した前例があった。
今回は、ドイツはその挑発に乗らなかった。
その結果、ルーズベルトは「戦争裏口説」と呼ばれる政策を考えるようになった。すなわち、日本を挑発し、それをきっかけに日本と同盟関係にあったドイツと戦うシナリオである。
そのもっとも顕著な例が有名な「ハル・ノート」である。ハル国防長官は当時行われていた日米交渉の最後になって、従来の交渉の一致点を全て無視して、始めには提示しなかったような最後通牒とも言える厳しい条件を突如だしてきた。
アメリカはその時点で、日本と戦う意志を固めていたのは事実のようであると、高坂は推測する。
さらに高坂は言う、以上の事から日本に責任がなかった事を意味するものでは全くないと。

