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2023年1月28日土曜日

読書 文学のレッスン 丸谷才一

 

   全然歯がたたない


著者:丸谷才一(インタビューア:湯川豊)
出版:新潮選書

丸谷才一(以下丸谷)の最晩年に行われたインタビュー形式での著作。この頃病気がちで入退院を繰り返していた時期に行われたようだ。
内容を簡単に記すと以下のようになる。
「短編小説」なぜアメリカで発展したのか 
「長編小説」なぜイギリスで発展したのか
「伝記・自伝」なぜイギリスで繁栄したか 
「歴史」歴史は文学とどのようにかかわっているのか 
「批評」批評にとって最も大事なことは何か 
「エッセイ」エッセイという形式はどのようにして生まれたのか 
「戯曲」芝居には色気が大事だ 
「詩」詩こそ文芸の中心・・・と文学全般に渡る、謂わば「文学総合講座」のようなものである。

内容は、インタビュー形式なので、読みやすいが、だからと言って理解しやすい訳ではない。奥行きが深く、丸谷は元々英文学専攻なので、例示するのも、イギリスやヨーロッパの話が多くなる。私にバックグラウンドがないので、そういう箇所になると、全く理解できないというかギブアップ。
例えば、長編小説で「プルーストとジョイスがじっくり読まれた結果・・・ガルシア・マルケスもナボコフもボルヘスも新しい小説を書いた」とか、戯曲では「バロック演劇」等々の言葉が出てくると、チンプンカンプンである。
ただ驚くのは、インタビュアーである「湯川豊」が、丸谷に負けず劣らず教養が深く、インタビューを巧く誘導している。丸谷がこのインビューアー(湯川豊)を「年少気鋭の友人」と書いているが、彼は当時、文藝春秋社の取締役を経て、大学の教授であるから、丸谷との「対談形式」をとっても十分に読み物になったのではないかと思えるほどだ。

海外も含めて、文学全般に興味がある方には、面白いかも知れませんが、私には難し過ぎました。何故この本を買ったのだろう?

2023年1月23日月曜日

読書 三島由紀夫と司馬遼太郎・・・美しい日本をめぐる激突

     リアリストの司馬遼太郎vsロマン主義者の三島由紀夫


著者:松本健一
出版:新潮選書

三島由紀夫は純文学の旗手であり、ノーベル賞候補にもなる文壇の寵児であった。
一方の司馬遼太郎は後に国民作家と呼ばれるが、終生文壇とは距離を置き、大阪で執筆活動をしていた歴史小説家であった。
1970年11月25日に三島が自決するまでは、この二人の接点は殆どなかったと思われる。

その日三島は自衛隊市ヶ谷駐屯地に乱入し、「天皇陛下万歳!」と叫んで自決した。
この三島事件に対して、作家の文学の延長線上での自己表現として評価する雰囲気もあり、マスコミはどう対応すべきか、戸惑っていたようにも感じられた。あの小林秀夫でさえ、『この事件の象徴性とは、この文学者(三島)の自分だけが責任を背負い込んだ個性的な歴史的経験の創り出したものだ・・・(略)・・・そうでなければ、他人であり孤独でもある私を動かす力が、それに備わっているだろうか』と言っている。(「小林秀夫・江藤淳全対話」より)
その時、毎日新聞の編集部が動き、気乗りのしない司馬に三島事件についての感想を求め、翌26日朝刊の一面全面を費やして、その批評文「三島由紀夫への献辞と批判」が掲載された。
この批評文によって世の中での三島事件の評価が下されたように思う。
本書ではないが、当時「中央公論」の名編集長と言われた粕谷一希は、この記事を読んで「これは名文だ。司馬遼太郎が単に歴史作家を超えて、現実の日本の問題に対する指導的な言論を述べるリーダーへの転機となった一文である」と述べている。
ただ一般には、この二人の関係は、この25日から26日の間の一瞬の遭遇で終わったと思われていた。

著者は、それからさらに突っ込んで、リアリストであり戦後日本を是認していた司馬と、ロマン主義者かつ芸術至上主義で、戦後日本を否定していた三島の、それぞれの美学あるいは生き様を比較することで、二人にとっての「美しい日本」とは何であったかを論じている。

前述したように、それまで一瞬を除いて接点がないどころか全く真逆の価値観を有する二人を、細かく分析・比較することで、面白い評論が出来上がったと思う。

特に司馬の作家活動の後半生の代表作となった「街道をゆく」は、三島の「天皇陛下万歳!」自決直後からシリーズが始まっており、その膨大な紀行文の中で、著者は、「天皇の物語」がないことに気づく。敢えて避けているようであると。そういう目で見ると、司馬の代表作である「坂の上の雲」の日露戦争も「天皇の戦争」ではなく「国民の戦争」として描いていたことに気づく。司馬はそのシリーズで書いているのは、日本文化のモノづくり、例えば米づくりや砂鉄づくり、そして匠の物語である「美しい日本」であった。
そんな司馬もバブル期の日本に失望し、国を憂いていたことは周知の事実だ。

三島由紀夫も司馬遼太郎も高度成長期を経た日本が、経済至上主義に走り、ナショナル・アイデンティティ(日本らしさ)を喪失していることに強い危機感をいだいていた。そして彼ら二人は経済大国日本とは別の、もうひとつの日本を提示しようとしていたという。

接点のない二人の作家の違いを際立たせておいて、真逆な二人が、生涯の最後に、共に空虚な大国へ成長した戦後日本を憂えたという方向性を導き出したのは、コペルニクス的発想の転換で面白かった。

2023年1月5日木曜日

読書 飛び立つ季節 - 旅のつばくろ 沢木耕太郎

往年のバックパッカーの老後の旅立ち


著者:沢木耕太郎
出版:新潮社

沢木耕太郎の旅といえば、バックパッカーのバイブルとでも言える、海外を旅する「深夜特急」のイメージが強いが、本著は国内の紀行エッセイ。
著者のノンフィクションの作品群は硬質な文章を淡々と積み重ねていくイメージだったが、この作品には、それとは違って年齢と共に丸くなったような等身大の著者の姿が浮かびあがってくる。

目的地だけを定めて、後は成り行きに任せる旅のスタイルは、若い時と変わっていないようだ。そこには、偶然がもたらした出会いがあり、喜びがある。
16歳に初めて旅に出た東北一周の跡を辿り、デビューしたての頃に過去の文豪に憧れて逗留した伊豆を訪ね、過去を振り返りながら、時間を気にしないで、自由気ままな旅の楽しみを堪能させてくれる。これまでのノンフィクションは、本人が登場しても中心は他人だったが、本著は自分自身について語っている。寝る前の読書に最適です。