ウクライナ侵攻に通じる戦争の悲劇
発行:岩波新書
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ侵攻を捉えて、この戦争はナチズムから祖国を守る「大祖国戦争」だと訴えています。
われわれにとっては「大祖国戦争」というより、「独ソ戦」という方がイメージが湧きやすいのですが、ロシア人にとっては、われわれには測りがたい独特のイメージがあるようで、本書はそれを解き明かしてくれます。
また近年、ノーベル文学賞の「戦争は女の顔をしていない」や日本では本屋大賞の「同志少女よ、敵を撃て」など、独ソ戦を舞台にした話題の本も多く、独ソ戦とはどんな戦いだったのが知りたくて、この本を手にしました。
<祖国戦争・大祖国戦争とは>
<未曾有の惨禍>
太平洋戦争の日本人の戦死者が、軍民合わせて約300万人と言われているのに対して、独ソ戦では、3000万人強(ロシア:2700万人、ドイツ:350万人)と言われており、日本人の死者の約10倍もの人が死んでいます。
<殲滅戦争>
そして、その独ソ両軍のそれぞれの残虐非道な、殲滅戦争の戦い方を描いています。
戦後、ドイツでは、この戦争をヒトラー個人に罪を負わせていましたが、新しい事実から見えて来た国防軍・ドイツ財界・ドイツ国民の関わり方、そして、冷戦終了後に明らかになったスターリンの指示によるソ連軍の残虐さ等、最新の学説を中心に、この戦争の概要をコンパクトに纏めています。
<全体を読み終えて>
その流れの中でのヒトラー流の帝国主義観の内容にも驚きました。(日本も他人事ではありませんが・・・)
優秀なゲルマン民族を栄えさせるために、東欧を植民化し、さらに民族的に劣っているとみなしたスラブ民族の住む地域も植民地にしようと、当初から考えていた事には、今さらながら驚きです。
現に併合した東欧から略奪した物資をドイツに還流したので、ドイツ国民は、相対的に裕福な生活を享受していた。ドイツ国民にヒトラーの政策は受け入れられたのでした。
現に併合した東欧から略奪した物資をドイツに還流したので、ドイツ国民は、相対的に裕福な生活を享受していた。ドイツ国民にヒトラーの政策は受け入れられたのでした。
そして「独ソ不可侵条約」は単に対仏戦争のために背後の憂いを絶つために利用したに過ぎず、対ソ戦は予定通りの行動であった。但し兵站の失敗は想定外だった。フランスとソ連は違っていた。
そしてヒトラーは劣悪なスラブ民族を殲滅、つまり皆殺しにしようと本気で考えていたことが、この戦争を悲惨なものにしていった。その攻撃を受けたソ連も、復讐心に燃え、さらに壮絶な殺し合いになっていった。
現在では、ヨーロッパでは、人道主義に反するものは・・・という批判をしているが、もとをただせば、かつての彼らの帝国主義が、このような独ソ戦に繋がっているのも無視できない事実でもあると思います。
本書を読んで、当時のヒトラー及びドイツ軍が、今日のウクライナ侵攻を始めたプーチンと同じような発想の上に立っていた事が、より鮮明に見えてきます。
共に、電撃戦で、短期決戦で終わるであろうと・・・
(追記)
以前から私の中で持っていた疑問は、第1次世界大戦で、帝政ロシアとフランスの東西2正面作戦で失敗したドイツが、第2次世界大戦で、またも同じ東西2正面作戦を取ったのが、不思議だったのですが、本書でその説明もされていました。内容は省略。