「大中華圏」と「日米豪印同盟」のはざまで
著者:手嶋龍一・佐藤優
出版:中公新書クラレ
菅政権発足が2020年9月、アメリカ大統領選挙が11月で、この本の執筆完了が2020年11月なので、2021年4月末に読むというのは、賞味期限の切れた本を読むような気がしたが、現実に起こっていることに対して、二人の見立てとのギャップがどの程度のものかを、知るためにも読み始めたが、かなり面白かった。
(本文からの一部抜粋)
佐藤:菅総理の印象は、何度かお会いした印象は、一見ソフトムードだが、「ごり押しタイプ」で、「前進また前進」という感じの政治家。発足して間もない菅政権が、日本学術会議から推薦された6名の候補に任命を拒否した。そんなところにも、強硬な政治姿勢が出ている。
手嶋:この問題は重要な政治課題とは言い難い。ならば何故に、こうした問題で消耗戦に入るのか。菅さんという政治家は、役人の人事を武器に、今日の地位を築いた人です。政権に批判的な学者を任命したくないと考え、その延長戦で、この問題を扱ったのだと思います。
佐藤:菅内閣は拒否理由を明らかにしませんが、安保法制に反対だったり、特定の政党との関わりがあったりする研究者だとみられています。この問題を利用して、右派勢力に味方だというメッセージを送りたいのかも知れません。トランプのコロナ感染を隅に追いやって、この問題を1面トップに扱った新聞もありました。
菅さんは官房長官時代も定例の記者会見で、モリカケ問題を巡って東京新聞の望月衣塑子記者の質問にあからさまにイラつく場面がありました。上手に受け流すテクニックを持ち合わせている人ではない。守りは苦手な感じがします。
(この執筆中に菅総理の息子が絡んだ総務省の接待問題が発覚していれば、面白いコメントが聞けたかも・・・残念だ)
・・・等々と、政治家の細かな一挙手一投足にまで目を向けて二人の対話が進んでいく。
次にまた新しい見方が出てくるのではと思いながら、ドキドキしてページをめくるのは、読書の醍醐味でもある。
全体的に俯瞰すれば、今日までの間の二人の見立ては正しいと思う。
今後の米中関係につては、トランプ以後もアメリカの対中国政策は、ドンドン先鋭化し、台湾有事の際の日本の立ち位置が厳しく求められる。
また、バイデン政権の誕生による最大の変化は、米国内でアイデンティティの政治が強まり、それが人権重視という米民主党の伝統と結びついて、外交ゲームが複雑になると見立てるなど、二人の見立ては益々冴えわたりそうだ。
凄い眼力だと思う。