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2021年4月30日金曜日

読書 手嶋龍一・佐藤優の「菅政権と米中危機」

   「大中華圏」と「日米豪印同盟」のはざまで


著者:手嶋龍一・佐藤優
出版:中公新書クラレ

本書を買ってから暫く積読状態であった。
菅政権発足が2020年9月、アメリカ大統領選挙が11月で、この本の執筆完了が2020年11月なので、2021年4月末に読むというのは、賞味期限の切れた本を読むような気がしたが、現実に起こっていることに対して、二人の見立てとのギャップがどの程度のものかを、知るためにも読み始めたが、かなり面白かった。

(本文からの一部抜粋)
佐藤:菅総理の印象は、何度かお会いした印象は、一見ソフトムードだが、「ごり押しタイプ」で、「前進また前進」という感じの政治家。発足して間もない菅政権が、日本学術会議から推薦された6名の候補に任命を拒否した。そんなところにも、強硬な政治姿勢が出ている。
手嶋:この問題は重要な政治課題とは言い難い。ならば何故に、こうした問題で消耗戦に入るのか。菅さんという政治家は、役人の人事を武器に、今日の地位を築いた人です。政権に批判的な学者を任命したくないと考え、その延長戦で、この問題を扱ったのだと思います。
佐藤:菅内閣は拒否理由を明らかにしませんが、安保法制に反対だったり、特定の政党との関わりがあったりする研究者だとみられています。この問題を利用して、右派勢力に味方だというメッセージを送りたいのかも知れません。トランプのコロナ感染を隅に追いやって、この問題を1面トップに扱った新聞もありました。
菅さんは官房長官時代も定例の記者会見で、モリカケ問題を巡って東京新聞の望月衣塑子記者の質問にあからさまにイラつく場面がありました。上手に受け流すテクニックを持ち合わせている人ではない。守りは苦手な感じがします。
(この執筆中に菅総理の息子が絡んだ総務省の接待問題が発覚していれば、面白いコメントが聞けたかも・・・残念だ)

・・・等々と、政治家の細かな一挙手一投足にまで目を向けて二人の対話が進んでいく。
次にまた新しい見方が出てくるのではと思いながら、ドキドキしてページをめくるのは、読書の醍醐味でもある。

全体的に俯瞰すれば、今日までの間の二人の見立ては正しいと思う。

今後の米中関係につては、トランプ以後もアメリカの対中国政策は、ドンドン先鋭化し、台湾有事の際の日本の立ち位置が厳しく求められる。
また、バイデン政権の誕生による最大の変化は、米国内でアイデンティティの政治が強まり、それが人権重視という米民主党の伝統と結びついて、外交ゲームが複雑になると見立てるなど、二人の見立ては益々冴えわたりそうだ。
凄い眼力だと思う。

2021年4月26日月曜日

読書 井上章一の「大阪的ー『おもろいおばはん』は、こうしてつくられた」

     司馬遼太郎も嘆く大阪への偏見


著者:井上章一
出版:幻冬舎新書

産経新聞に連載された「井上章一の大阪まみれ」を改題。
東京から見ると、大阪は、吉本興業のお笑い芸人のような人ばかりいる街とか、エロい街とか、食い倒れと称して、たこ焼きやホルモン焼きのようなB級グルメばかりだと思われている等々、大阪に対する中央の偏見に対して、京都生まれの著者が、大阪人に代わって、その反論を試みながら、一つの文化論にまとめ上げている。
<目次>
第1章  大阪人はおもしろい?
第2章  阪神ファンがふえた訳
第3章  エロい街だとはやされて
第4章  美しい人は阪急神戸線の沿線に
第5章  音楽の都
第6章  「食いだおれ」と言われても
第7章  アメリカの影
第8章  歴史のなかの大阪像
第9章  大阪と大阪弁の物語

1920~1930年代(大正末期から昭和初期)までは大阪の経済力は東京と互角か、指標によっては東京を凌いでいた。
その中で大阪は工業都市へ変貌する。その結果、煤煙を嫌った大阪の経済人は、六甲山麓の芦屋や神戸へ本宅を構え、東京の山の手のような街が出現した。まさに谷崎潤一郎が描いた「細雪」の世界がここにある。
とは言え、大阪に本社を構えていた大企業の多くは本社を東京に移し、大阪の地盤沈下が始まる。挙句の果てに、冒頭に書いたような大阪人のイメージが形成されてゆく過程を、著者は執拗に掘り下げてゆく。

大阪のイメージについて、大阪を代表する作家である司馬遼太郎の面白い記述を見つけた。
司馬は、「神戸・京都の人達にとって、大阪は自尊心を満足させるために存在しているかのようだ」と自嘲している。
これらの3都市は、都市の性格や機能がたがいに違っている。市民文化も違う。
『民度もちがうんじゃないか』と、神戸の友人がみもふたもないことを言ったことがある。私は大阪に住んでいる。それだけでも、彼らにとっては笑止なことであるらしい。神戸、京都とも、都市的個性が、日本の他の都市からみれば異国のようにきわだっている。都市というより、ときに、あれは(文化的閉鎖性と郷土愛のつよさをふくめて)国だと思うことがある

司馬遼太郎をもってしても、大阪の負のイメージの払拭は難しいようだ。
大阪人頑張れ!!!!!

2021年4月22日木曜日

読書 「司馬遼太郎の街道」東京編+京都・奈良編

 「街道をゆく」が2度楽しめる朝日の「どじょう商法」


どじょう商法」という言葉があるらしいが、Googleで検索したが出て来ない。
所謂、新規の商売ではなく「柳の下の二匹目のどじょう」を狙った商売である。
(元々の「柳の下の泥鰌」の意味とは反対の使い方ではあるが・・・)




かつて「松下電器」と呼ばれていた会社は「マネシタ電器」と揶揄された時代があり、それは「どじょう商法」と言われた。競合相手のソニー(こちらは「松下電器ソニー研究所」と呼ばれた)が新しいアイデアを出して、顧客の新規開拓を行うと、「松下電器」が同じような製品を出して、全国に広がる販売網を駆使して、瞬く間にシェアを奪った(古き良き)時代があった。(その後、家電量販店の時代になると、このビジネスモデルは崩壊した)

今回取り上げた2冊の本(東京編および京都・奈良編)も「どじょう商法」の類型だと思う。
かつて、司馬遼太郎が「街道をゆく」を週刊朝日に掲載し、その後単行本化し、次に文庫化する。そして全43巻が累計1200万部の大ベストセラーになった。
通常はここまでであるが、司馬遼太郎亡き後、その後ベストセラー作家に恵まれない週刊朝日は考えた。
かつて司馬遼太郎の「街道をゆく」に同行した記者が、その地を再訪して、かつての司馬を偲んだり、その後の現地の状況をリポートする・・・これならイケると担当者はほくそ笑んだかも・・・
これを週刊朝日に連載し、単行本化し、その後の文庫化に当たっては、地域を東京・京都・奈良に限定し、再構成して出版した。それが今回取り上げた2冊である。

「どじょう商法」と分かっていながら、この本を買うバカな顧客が世の中にいっぱいいるから、週刊朝日は笑いが止まらないであろうと思いながら、本を買ってしまうのが司馬遼太郎ファンの性(サガ)なのかも知れない。
(週刊朝日も週刊文春にやられっぱなしで可哀そうではあるが・・・)

かつての「街道をゆく」の愛読者で、なおかつ「どじょう商法」と分かっていても、「街道をゆく」を二度楽しみたいという御仁は買って下さい。それなりに司馬遼太郎を偲ぶことが出来ます。


2021年4月12日月曜日

写真 スミレの異常繁殖

「菫ほどな小さき人に生まれたし」の現場は???


夏目漱石に「菫ほどな小さき人に生まれたし」という俳句がありました。
漱石はきっとこの写真のようなスミレを見たのかも知れません。












一方、スミレに関しては、我が家の家庭菜園の畑に異変がおきています。
3年前にどこからか種が飛んで来たスミレが1株だけ花が咲きましたが、今年はこんな状況になっています。

夏目漱石が、このスミレを見てどう思うでしょうか?
上部に少し見えるのが、ネギです。

春先の畑の雑草としては、スミレと競合するのが、主に「ホトケノザ」なのですが、これを取り除くと、スミレの天敵がいなくなり、後は作物のネギにお構いなしに、わがもの顔で繁殖し、現在のネギ畑の畝はこんな様子です。

2021年4月5日月曜日

読書 葉室麟「古都再見」を読んで

 人生の幕が下りる前に移り住んだ京都でのエッセイ

著者:葉室麟
出版:新潮文庫

司馬遼太郎の「街道をゆく」は、私の愛読書のひとつなのだが、残念なことに、京都の洛中に関しての街道(テーマ)が入っていない。
「街道をゆく」に取り上げられた京都付近の街道は、「洛北諸道」「叡山の諸道」「嵯峨散歩」「大徳寺散歩」等があるが、いずれも「洛外」で、「洛中」に関して書かれたものがない。理由はわからない。(ご存じの方が居れば教えて下さい)
その空白を埋めてくれたのが本書である。

ただ冒頭から「人生の幕が下りる。近頃そんなことをよく思う。(中略)今年(2015年)二月から京都で暮らしている。これまで生きてきて、見るべきものを見ただろうか、という思いに駆られたからだ。(中略)幕が下りるその前に見ておくべきものは、やはり見たいのだ」と、自分の余命を知っているかの如き悲愴な覚悟をもった書き出しである。

全編を通じて、京都とその歴史を語りながら、いわゆるガイドブックのようなものは一切ない。日々の苦悩に悶々としながら生きた歴史上の人物を、身近な人間として静かにじっくりと語ってくれている。著者の優しさだろう。

著者は本作の連載(当初は週刊新潮に連載)を終えたちょうど1年後に他界した。この続きを読めないのが残念でたまらない。
葉室麟の愛読者としては、是非読んでおきたい1冊である。

追記
私も著者がいうように「人生の幕が下りる」前に1年間でいいから京都に移り住んで、写真を撮りまくりたい。

2021年4月4日日曜日

街道を撮りにゆく 福島の桃源郷・花見山2021

        花々に圧倒されます


20年程前に初めて訪れた時の写真です。(当時はポジフィルム)
今は樹々も大きくなりボリューム感が凄く、様子が全然違います。
2021年は以下の写真をご覧下さい。素晴らしいの一言に尽きます。


「花見山」は、阿部伊勢次郎さんとご家族の方が、それまで花を栽培していた山を、花を観たいという人々の要望に応えて、昭和34年に一般に無料で「花見山公園」として開放しました。写真を見ていただければ分かりますが、個人でここまでやるのは、大変な事だったと思います。感謝の念でいっぱいです。
そんな花見山へ2021年4月に入るとすぐに行ってきました。

また、写真家の故・秋山庄太郎氏が、毎年写真撮影に訪れて「福島に桃源郷あり」と称えて、全国的にも有名になりました。

春になると、花見山の正面に雪を頂いた吾妻連峰が見え、桜、レンギョウ、ボケ、モクレン、ハナモモ、サンシュユ等々が、宝石を散りばめたように咲き誇ります。

以下写真でご覧下さい。

途中の東北自動車道から桜越しに見える安達太良山

花見山の入り口です。













最初に出迎えてくれるのが、ツクシとヒメオドリコソウと菜の花です。




花の種類が多く、それが混在しているので圧倒されます。
冒頭の写真のハクモクレンと比較するとかなり大きくなりました。

連翹(レンギョウ)

山茱萸(サンシュユ)
白木蓮(ハクモクレン)

日向水木(ヒュウガミズキ)

名前が分かりません? ご存知の方は教えて下さい。

菜の花で書いたハートマーク

以上、ここでは載せきれない程の花々に圧倒されます。4月初旬の今がピークです。
「いつ行くか? 今でしょう」