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2021年4月5日月曜日

読書 葉室麟「古都再見」を読んで

 人生の幕が下りる前に移り住んだ京都でのエッセイ

著者:葉室麟
出版:新潮文庫

司馬遼太郎の「街道をゆく」は、私の愛読書のひとつなのだが、残念なことに、京都の洛中に関しての街道(テーマ)が入っていない。
「街道をゆく」に取り上げられた京都付近の街道は、「洛北諸道」「叡山の諸道」「嵯峨散歩」「大徳寺散歩」等があるが、いずれも「洛外」で、「洛中」に関して書かれたものがない。理由はわからない。(ご存じの方が居れば教えて下さい)
その空白を埋めてくれたのが本書である。

ただ冒頭から「人生の幕が下りる。近頃そんなことをよく思う。(中略)今年(2015年)二月から京都で暮らしている。これまで生きてきて、見るべきものを見ただろうか、という思いに駆られたからだ。(中略)幕が下りるその前に見ておくべきものは、やはり見たいのだ」と、自分の余命を知っているかの如き悲愴な覚悟をもった書き出しである。

全編を通じて、京都とその歴史を語りながら、いわゆるガイドブックのようなものは一切ない。日々の苦悩に悶々としながら生きた歴史上の人物を、身近な人間として静かにじっくりと語ってくれている。著者の優しさだろう。

著者は本作の連載(当初は週刊新潮に連載)を終えたちょうど1年後に他界した。この続きを読めないのが残念でたまらない。
葉室麟の愛読者としては、是非読んでおきたい1冊である。

追記
私も著者がいうように「人生の幕が下りる」前に1年間でいいから京都に移り住んで、写真を撮りまくりたい。

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