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2023年9月20日水曜日

映画 「こんにちわ、母さん」山田洋次監督

タイトル:「こんにちは、母さん」
監  督:山田洋次
主  演:吉永小百合、大泉洋

観終わった後には、ほっこりとした気持ちが残り、最高に良い映画です。
「山田ワールド」にはまり込んで、何度か思わず涙が出てしまいまいました。
(ストーリーは省略します。全体を読んでいただければ、何となく流れが分かると思います)



★この映画を観て「男はつらいよ」を思い出しました。

<山田監督の得意とするありふれた日常生活>
「山田ワールド」という、ありふれた日常を描いたワンパターン的なストーリーの中にいろんなものを、丁寧に詰め込んでいく山田洋次監督らしさが伺えます。

<寅さん>
寅さんに当たるのが吉永小百合。最後は寅さんと同じように失恋します。
if・・・山田監督は92歳なので、続編は期待できませんが、仮に続編ができたら、吉永小百合は、寺尾聰を追っかけて北海道へ行く物語になるかも知れません。その時は「男はつらいよ」ではなく「幸せの黄色いハンカチ」かな。

<寅さん気質(かたぎ)>
大泉洋が、大企業の部長の座を投げ出し、リストラされる友人(宮藤官九郎)を救うなんて、実際はありえない話ですが、まさに「寅さん」的な気持ちが伝わってきます。
また、宮藤官九郎も、リストラされるうだつの上がらないサラリーマンとしては、はまり役でした。

 <日本の原風景>
「日本の懐かしい風景」を映画の中に取り込む手法です。
「男はつらいよ」シリーズでは、途中から懐かしい(あるいは残したい)日本の風景というものを、映画の中に取り込んでいきます。
京都・伊根の風景や、九州・日田の風景は印象的でした。

隅田川や吉永小百合の家の周辺では、(そこに住んだこともないけれど)何となく懐かしい下町の雰囲気が、醸し出されています。
家に鍵を掛けないので、近所の人が勝手に入ってくる場面は、子供の頃の家のことを思い出してしまいます。(私が子供の頃はどこの家もこんな感じでした)
隅田川の花火は、長岡の花火等と比較すると、スケール的にはそれほどでもないと思うのですが、吉永小百合が、向かいの家の屋根越しに見る花火の場面は、情緒的な光景だなあと思ってしまいました。

<異質な存在:田中泯≒笠智衆
ボランティアでホームレスに食料を配布にきた吉永小百合と寺尾聰が立ち去った後で、田中泯の顔がアップされて「あいつら出来てやがる」というドスの効いた顔と声が効果的で、物語全体の中での二人の関係を暗示しています。
また、ボロ自転車に空き缶を山のように積んで、よろけながら自転車に乗っている場面や、言問橋の上での東京大空襲を思い出して暴れるシーンでは、凄い迫力です。
田中泯は、この映画の中で「異質」さを醸し出しています。
誰かが「男はつらいよ」での笠智衆を評して「異質的な存在」だと言っていたのを思いだしました。役柄というか役の雰囲気は真逆ですが、笠智衆に相当する存在として田中泯は、この映画で異質な存在として光を放っています。

(余談)山田洋次監督の時代劇三部作(武士の一分・隠し剣 鬼の爪・たそがれ清兵衛』)の、『たそがれ清兵衛』で、主人公の真田広之が、「上意討ち」をする相手役として、田中泯が登場します。
「上意打ち」に怯むことなく、酒に溺れて荒んだ侍というものを、凄まじいまでの迫力で演じていたのには驚きました。
田中泯は、器用な俳優?(本職はダンサー)ではないので、平凡な役では下手くそな演技ですが、役がハマると凄い迫力の演技をします。
山田監督はきっとこのホームレスの役に使いたかったのでしょう。

★その他雑感
<青春の思い出>
大泉洋が、実家の押入れから高校時代に夢中になったカセットデッキを探し出してきて「涙のキッス」を歌う場面は、この場面の挿入の仕方がうまいのと、大泉の歌も良かったです。

以上、ダラダラとした感想で、お時間を取らせました。
ただ、中高年の世代には、受けると思いますが、若い人にはどうでしょうね。
若い世代には、この映画の良さが、分からないのではないかと懸念されます。