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2024年12月10日火曜日

読書 「不適切」ってなんだっけ(高橋源一郎)

    話題の本質に迫る時事エッセイ


著者:高橋源一郎
出版:毎日新聞出版

「サンデー毎日」連載(2021年10月31日~2024年3月3日)の「これは、アレだな」の第3弾。

著者の対談は雑誌でいくつか読んでいましたが、時事エッセイは初めて読みました。毎回取り上げられた各項目は少々軽薄なタイトルですが、内容はかなり重たいというか、著者の深い洞察力が感じられます。

例えば「老人はみんな死ね」という項目では・・・
このタイトルを見て、以前に、変な形の眼鏡を掛けて、マスコミから持てはやされていたイェール大学経済学部アシスタント・プロフェッサーの成田祐輔なる人物が、近年の日本の財政的な諸問題を解決するには「高齢者は老害化する前に集団自決、集団切腹みたいなことをすればいい」などの発言を繰り返し行っていたのを思い出しました。
ただ高橋源一郎氏は、御年73歳で、38歳の成田某のような他人事として、この問題を取り上げたのではないのが分かります。

きっかけは友人が銀行から突然「70歳を超えたので、ローンの残額を全額払うように」という連絡があった事がきっかけだそうだ(契約書にの末尾に小さく書いてあった)。本人も、とある理由で地方に仕事場を借りたときに不動産屋から、70歳を超えているのでと、いろんな条件をつけられたり、インターネットを開設する段になって、業者から「65歳を超えているので、奥様に確認をとりたい」等など、身近な問題が起きている。
ローンや賃貸やネットだけではなく、70歳を目安に、この国では一気に住みにくくなるようだと言う。

そして映画「プラン75」の話へ発展してゆく。
映画の内容は、少子高齢化が進んだ近未来の日本で「長生きする老人」のために、社会は疲弊してゆく。そのため75歳になると「生死の選択権」を与える制度が国会で可決される。それが「プラン75」・・・本人曰く「なんだか生命保険にありそうな名前で微妙な気持ちになる」
「この映画での倍賞千恵子の演技が素晴らしいというか、その老い方があまりにリアルなのだ。顔や口もとの皺、たるんだ皮膚、鈍い動き、そのすべてが老人とはこういうものだという現実を突きつけてくる・・・そして『プラン75』を選択した者は、ある施設に向かう・・・その施設で亡くなった者たちの遺品は、集められ、分けられる。迎え入れから最後の分別まで、画面を見ながら、どこかで見たような風景だと思った・・・最後に気づいた。それはナチスの強制収容所(の映像)で見かけた風景だった」

さらに話は「棄老」の物語である深沢七郎の「楢山節考」の話へ展開し、著者曰く「プラン75」と「楢山節考」にはまったく同じシーンがある。それは最後に日に家を出るときの作法を教えるシーンだという。
「楢山節考」では、その作法を教えるのは、経験のある村人たちで、深い共感といたわりに満ちたものだが、「プラン75」では、それを伝えるのは、そのサービスのために作られたコールセンターの係員だという。
私は、きっとこれが現実になった時には、人工音声に代わっているだろうと思います。

以上は一例ですが、軽いタイトルとは裏腹に深い洞察に満ちた話が満載です。

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