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2024年8月23日金曜日

読書 蔦 重(吉森大祐)


   江戸の稀代のプロデューサー蔦屋重三郎


著者:吉森大祐
出版:講談社文庫

江戸時代の稀代のプロデューサーである蔦屋重三郎(以下「蔦重」)を描いた短編集。
(2025年のNHK大河ドラマはオリジナル脚本で、この本は原作ではありません)

鋭い閃きと大胆な企てで時代を切り開いた蔦重は、喜多川歌麿、東洲斎写楽、恋川春町、山東京伝、曲亭馬琴等々の絵師や戯作者たちを次々と世に送り出した。
時代は田沼時代から一転して松平定信の寛政の改革へと・・・
そうした変化の中でも、絵師、戯作者の才能を巧みに操り、次々と流行を生み出した
蔦重の光と影を描く物語。

中でも謎の絵師と言われ、大胆なデフォルメで一世を風靡した東洲斎写楽については、「写楽=阿波徳島藩の斉藤十兵衛」という仮説を前提に悲喜こもごもの物語が進む。
蔦重は、世間から才能を認められないで燻っていた十兵衛を苦労して時代の寵児にまで押し上げたが、それに浮き足立って十兵衛は、わがままを言い始めた。蔦重の言うことに耳を貸さない十兵衛の絵の質は、描くほどに下がっていった・・・蔦重そんな十兵衛に見切りをつけ、切って捨てた。そして東洲斎写楽という名前は人びとから忘れ去られてしまう。
そんな蔦重に対して、芝居茶屋の女将・お静は言う「器用なあんたは、いつも選ぶ側に立つ。ブザマに選ばれる側の気持ちは一生わからない・・・」と。
蔦重は、ふと思い出す。若き日の吉原。三味線弾きの美少女・於美与が選んだのが十兵衛。
つまりは、さんざん粋に恰好をつけていたあの頃のおいらより、不真面目で浮かれてただけの十兵衛の方が、男としちゃ、上だったってことか。なぁんだ。
そう考えると、なんだか、全てが馬鹿バカしく思われた。

百年後、幕末・明治になってから、日本の浮世絵が大量に欧州に渡り、ジャポニズムのブームが起きると、写楽の不思議な魅力をもった大胆な役者絵が大人気となる・・・

この物語には、幕府の政策に翻弄されながらも、当時の庶民の喜びと悲しみ、希望と絶望を描くことで、そこには令和の日本人と変わらぬ人間の姿があるように思えた。

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