著書:刀伊入寇―藤原隆家の闘い
著者:葉室麟
出版:実業之日本社文庫
大河ドラマ「光る君へ」との関連や著者が葉室麟だったので、本書を手にしました。
葉室麟の小説としては、登場人物が幻術を使う等、珍しく伝奇風歴史小説でしたが、史実とフィクションを織り交ぜ、結構面白く読むことができました。
また、元寇以前に、日本が異国から侵略されたというのも、本書で初めて知った次第です。
藤原道長に、「長徳の変」で破れた藤原伊周の弟・隆家が主人公なので、大河ドラマとは視点が違うので、別の面白さがあります。
隆家は貴族というより、常に闘う相手を探している武士のような男であり、権力争いには興味がない人物であるが、いやおうなく道長と兄・伊周の争いに巻き込まれ、兄とともに京から追放されるなど不遇な境遇に陥る。
そんな彼に安倍晴明は「あなたは日本を救う役目を担っている」と予言され、太宰府に赴き、大陸から侵攻してきた刀伊(女真族?)を迎え撃つ運命を全うする。
戦いの後、刀伊撃退の論功賞が朝廷での議題に上った時の、中枢部の公卿達の反応が面白い。藤原公任が「そもそも恩賞を与えなければなりまへんのやろか」と口火を切ると、同調する発言が相次いだ。恐らく当時の貴族というのは、遥か九州のことなどには、無関心だったのだろうと容易に想像できる。
このような会議になると予想していた実資は事前に道長に根回しをしており、その場の雰囲気を覆し、大宰府からの申請通りの結論へ誘導していった。
(当時、道長は息子頼道に政権運営を任せていたが、権勢は以前と変わらなかった)
そして隆家自身は、何も恩賞を要求して来なかったという事も、「気骨のある男を愛する」著者らしい結末であった。
TVの大河ドラマでの隆家は、(6月時点では)チャラチャラした感じで描かれているが、刀伊入寇に関して隆家は、どのように描かれるのか楽しみです。